骨盤骨折の病態と治療についての解説

骨盤骨折ってどんな状態なの?
骨盤骨折の治療はどんなことをするの?交通事故や高い場所からの転落など、とても強い衝撃が骨盤に加わることで起こる骨盤骨折。骨盤骨折と聞くと重症のイメージがあると思いますが、骨盤骨折もその重症度に幅があるため治療法も変わってきます。今回の記事では骨盤骨折の病態と治療について解説していきます。

骨盤骨折の病態について

骨盤骨折とは骨盤を構成している「寛骨(腸骨・坐骨・恥骨)」「仙骨」「尾骨」に骨折が起きることです。 骨盤骨折は以下の2つに分類されています。

  • 安定型骨盤骨折
  • 不安定型骨盤骨折

各項目について解説していきます。

骨盤の底部分にある「骨盤輪」は尿道や肛門などが通るために輪状構造という大きい穴になっています。

安定型骨盤骨折とは「輪状構造に対してあまり影響を与えない部分の骨折」や「1箇所だけの単独骨折」、「輪状構造を構成する箇所の骨折であるが転位(骨折によって骨が本来の位置からズレること)がほとんどない骨折」の事です。

骨がズレる危険性が小さい安定型骨盤骨折は比較的軽傷といわれ、後遺症が残ることも少ないといわれています。

安定型骨盤骨折には腸骨翼骨折、恥骨骨折、坐骨骨折、尾骨骨折などがあります。

不安定型骨盤骨折とは骨盤輪の前方部分と後方部分の両方に骨折や靭帯損傷、あるいは複数箇所の骨折があるなど、骨盤の輪状構造を保つことができなくなった状態を指します。

不安定型骨盤骨折は、交通事故や高所からの落下などのとても強い衝撃で起こることが多く、骨盤の周りには神経や動脈など重要な組織があり、場合によっ ては骨盤内で大量出血を起こす可能性がある大変危険な骨折です。

不安定型骨盤骨折は後方部分の損傷が一部にとどまる「部分不安定型」と,後方部分が完全に破綻,垂直方向にも不安定となる回線垂直不安定型に分けられます。

不安定型骨盤骨折には、両側の恥骨と坐骨の骨折で骨盤輪の連続性が損なわれているような「ストラドル骨折」 や前後垂直方向の骨折で骨盤の安定性が失われズレやすい状態の「マルゲーニュ骨折」、恥骨結合離開、仙腸関節 脱臼、腸骨骨折、仙骨骨折などがあります。

骨盤骨折の主な症状について

骨盤骨折では以下のような症状が出るとされています。 ・患部の激しい痛み

腫れ
圧痛(押すと痛みがある)
血尿
血便
性器出血
排尿障害
尿失禁
低血圧
意識障害
骨盤の変形
両足の長さのズレ

骨盤骨折では激しい痛みが骨盤を襲い、全く動けなくなるような状態になることもあります。

骨盤周囲や内部には重要な臓器や血管、神経などが通っており、それらが傷つくと場合によっては重篤な状態になることもあります。

骨盤骨折の診断について

骨盤骨折の診断は、以下の方法で行われます。

  • 単純X線検査(レントゲン検査)
  • CT検査
  • MRI検査

各項目について解説していきます。

単純X線検査は骨折の有無を確認できます。骨盤骨折では骨盤の左右差や恥骨結合という部分の離開などを調べ ます。

CT検査はレントゲンやMRIに比べて骨の描写に優れているため、レントゲンでは見づらくて診断できない骨盤 内部の臓器や血管などの損傷の有無、後方の骨盤輪の骨折などを調べるために使います。

骨盤は複雑な構造をしているためCT検査で骨折の位置などを詳しく調べる事がとても重要です。また、造影剤を使った造影CT検査 が用いられることもあります。

MRI検査では骨だけでなく神経などが見えるため、補助的な役割として使用される場合があります。

骨盤骨折の治療について

骨盤骨折の治療は以下の方法で行われます。

  • 保存療法
  • 薬物療法
  • 手術療法
  • 動脈塞栓術

骨盤骨折で選択される治療法は重症度によって異なります。それぞれの項目について解説していきます。

安定型骨折では骨のズレが起こりにくい場合が多いため、保存療法がメインとなります。骨のズレが起こらないように安静を保ち、骨の癒合(骨の折れた部分がくっつくこと)を待ちます。

軽傷の場合、1週間で歩行器を使用して短い距離を歩くリハビリがスタートして、1~2 ヵ月で後遺障害を残さずに治癒する場合が多いです。

薬物療法では痛みの緩和を目的に鎮痛薬や非ステロイド性抗炎症などが使われます。

不安定型骨盤骨折では骨盤のズレ、血管や臓器の損傷、骨盤周辺の大量出血などの恐れがあるため、手術療法が行われることが多いです。

骨盤骨折の手術療法には、骨盤に金属の棒を打ち込んで、体の外で棒同士をつないで骨折箇所がズレないように固定する「創外固定術」、スクリューやプレート、脊椎固定用のインプラント等を使って骨同士を直接固定する「観血的整復内固定術」があります。

不安定性骨盤骨折の受傷直後などで、大量出血やショック性の血圧低下などがある場合などに行われる止血法です。

心拍数や呼吸数、体温、血圧など生命に関わる状態を安定させるための、とても重要な手術です。

まとめ

保存療法で治癒するものから受傷直後で命に関わるものまで、重症度の幅が広い骨盤骨折。交通事故や高所からの転落など必ず原因があるケガです。

もしも自分が骨盤骨折かなと思ったら迷わず整形外科を受診しましょう。骨盤骨折の治療で重要なのは骨が正しい形で癒合することです。

医師は最良の治療を選択してくれますので、医 師と相談しながら一緒に治療を頑張っていきましょう。