鵞足炎の病態と治療についての解説

鵞足炎ってどんな状態なんだろう?

鵞足炎って治るのかな?

鵞足炎は「鵞足(がそく)」と呼ばれるひざの内側よりやや下方の脛骨(スネの骨)の周囲に炎症が生じる病気です。

英語では Pes Anserine Bursitis と呼ばれます。「鵞足」とは、脛骨というスネの骨の内側よりやや下に位置し、縫工筋、半腱様筋、薄筋と呼ばれる筋肉の腱が重なるようにくっつく場所(付着部位)です。

この部位にある滑液包に炎症が生じる状態が鵞足炎です。

滑液包(Bursae)とは、膝をはじめとしたその他の関節にも存在する小さなゼリー状の袋です。

少量の液体が含まれており、骨と軟部組織の間に存在し、摩擦を軽減するクッションの役割として機能します。

鵞足炎は膝を曲げる動作や捻る動作、股関節を開いたり閉じたりする動作によって滑液包に負担が繰り返しかかり慢性的な痛みが生じます。

ランナーやジャンプスポーツを行うアスリートをはじめとしたスポーツ選手に生じやすいですが、アスリートでなくても打撲などをきっかけに発症することもあります。また、ご高齢の方の膝への負担によって鵞足炎を生じることも少なくありません。

鵞足炎の病態をきちんと理解して、適切な治療を行えば痛みの軽減につながります。

今回の記事では、鵞足炎の病態と治療について解説をしていきます。

鵞足炎の病態について

鵞足炎は前述したように鵞足にある滑液包の炎症(滑液包炎)です。

滑液包炎は通常、摩擦などの力学的なストレスが繰り返されることによって発症します。 特に膝を曲げる動作や回旋動作(捻る動き)が鵞足へ負担をかけやすくなります。

鵞足炎は、ランナーやジャンプスポーツをはじめとした競技者(アスリート)のうち、特に縫工筋、半腱様筋、薄筋と呼ばれる筋肉の硬さが強く影響します。

また、アスリートだけでなくご高齢の方に多く発症する変形性膝関節症の人にもよく見られます。

さらには直接的な打撲のような外傷も鵞足炎の発症のきっかけになります。

鵞足炎では膝の内側よりやや下の場所に痛みが生じます。その部位に腫れや、押すと痛い(圧痛)、時には熱感などの炎症症状が生じます。

運動時や階段を下る時、歩くときに痛みが増すことが多く、また重症になると何もしていなくても疼くように痛くなることがあります。

鵞足炎の診断について

鵞足炎の診断は、以下の方法で行います。

  • 問診
  • 動作や可動域を見て検査
  • 画像検査

どうして痛くなったのか?どういう時に痛いのか?などを問診で聞き、

痛みの部位がどういう動作で痛いのか?

可動域に問題がないか?

を見て、レントゲンや MRI、超音波などの画像検査を行って診断を進めていきます。

まず徒手的に膝内側、鵞足部の圧痛、腫脹、内側ハムストリングや薄筋へ伸長性負荷(筋肉を伸ばすような刺激)によって痛みを誘発することで診断します。

レントゲンでは鵞足自体の軟部陰影の増大、超音波では鵞足の腱の周囲に低エコーの腫脹、MRI では鵞足部の輝度上昇(白く見える)が認められます。

ただ、慢性期(症状が長期化している時期)で腫れが著明でなくなると、これらの変化がわかりにくくなります。

そのため鵞足炎と同様に内側半月板損傷、脛骨内顆疲労骨折、変形性膝関節症などが膝の内側に類似した痛みを引き起こします。

鵞足炎と類似した疾患と区別するため、鑑別診断が重要となります。

鵞足炎の治療について

鵞足炎の治療は以下のように、薬やリハビリテーションで痛みを抑える治療が基本となります。

痛みが生じて間もない間は炎症症状が生じていることもあります。まずは安静を心がけ、症状が落ち着くまではランニングやスポーツ、その他の発症のきっかけとなった運動は一時休んだ方が良いでしょう。

少し痛みが和らぎ、軽い運動ができるようになったら、鵞足炎になった原因をしっかりと探り、再発を防ぐことも重要となります。

薬物療法、アイシング

鵞足炎の症状が発症して間もない間、炎症がある場合などは、アイシングによって炎症による熱感を軽減させていきます。

痛みが強い場合は、アイシングと並行して痛み止めの投与や消炎鎮痛剤の塗布によって痛みを抑えていきましょう。

痛みがある程度鎮まってきた後は軽いストレッチなど次の治療段階に進めるよう準備します。

リハビリテーション

ストレッチや筋トレ、負担がかかった使い方を修正し、正しい身体の動かし方を練習していくリハビリテーションは、根本的な鵞足炎の症状を改善していく為には、非常に重要な治療方法の1つとなります。

中長期的な観点からみると、リハビリによる治療が最も効果が高いというデータもあります。

また、電気療法や超音波治療などの物理療法も組み合わせながら実施します。

鵞足自体の問題ではなく、他の部位の柔軟性低下によって鵞足炎を発症することも少なくありません。

例えば、

足首の硬さや股関節の柔軟性低下により鵞足に負担がかかることも考えられる為、身体全体の機能を評価しながら鵞足炎のリハビリテーションを進めていきます。

まずは鵞足部や、その周囲にある筋肉のストレッチを行ったり、膝周りの筋肉を鍛えることにより患部自体のリハビリテーションを行います。

ただ鵞足炎になってしまった根本的な原因としては、身体の誤った使い方によって発症することがほとんどです。

鵞足に負担がかかってしまう原因としては、股関節や足関節が硬く、あるいは身体の誤った使い方のクセなどにより膝を酷使しているような状況になっています。

理学療法士などに相談し、膝(鵞足部)に負担がかかりにくいような生活動作やスポーツ動作を身につけることが根本的な解決に繋がるでしょう。

再発を防ぐ

鵞足炎は再発しやすいことが特徴です。というのも鵞足炎の主な原因は、前述したとおり負担がかかる動作の繰り返しや膝の使いすぎにあるからです。

特に鵞足炎になりやすい方には、鵞足に負担のかかるフォームや癖があることが多いことがわかっています。

したがって、鵞足炎がある程度回復したからと言ってそのまま競技に復帰すると、一度損傷した鵞足に再度負担が集中し、すぐに鵞足炎が再発する、という悪循環に陥ってしまいかねません。

まずは焦らずに鵞足炎をきちんと治すことはもちろんのこと、医師や理学療法士、トレーナーと共にいかに鵞足炎が再発しないようにフォームや癖を修正するかという点が非常に重要です。

また、使用しているシューズなどがきちんと体に合ったものかどうかを確認することも大切な再発防止策となります。

まとめ

ランナーやジャンプスポーツなどのアスリートや、ご高齢の方にも発症しやすい鵞足炎ですが放っておけば治るだろうと思っていても、なかなか治らないケースも非常に多いです。

鵞足炎は治療に時間が掛かることも多いですが、適切な治療を進めることで痛みが軽減することが期待できます。

1 日でも早く痛みを軽減させたい場合には、医師と相談しながら治療をすることが最良の選択となりますので一緒に頑張って治療をしていきましょう。