腱鞘炎の病態と治療についての解説

腱鞘炎の病態と治療についての解説

腱鞘炎とはどんな病気?
腱鞘炎は治るの? 一般的には手首によく起こると思われている腱鞘炎。実は全身で起こる可能性がある疾患の1つです。近年では スマホの普及による指の使いすぎで腱鞘炎になる人も多いといわれますが、軽い痛みだと思って放置しておくと 危険な場合もあります。

今回の記事では腱鞘炎の病態と治療について解説していきます。

腱鞘炎の病態について

腱鞘炎とは筋肉と骨を繋ぐ「腱」の周りを包んでいる「腱鞘」が炎症を起こして、痛みや動きにくさが症状とし て現れる疾患です。

腱鞘とは腱が通るトンネルのようなもので、指などの動きを円滑にするために腱のルートを 作っています。指などの酷使で頻繁に腱鞘内での摩擦が起こると腱鞘に炎症が起きてしまい、腫れて腱鞘の厚み が増したり、硬くなったりします。腱鞘が厚くなってしまうと腱が通りづらくなり、痛みや動かしづらさなどの 症状が出現します。

腱鞘炎は肘や足など全身いろんな場所で起きる可能性がありますが、特に動きの多い手首や指に発症しやすい傾 向があります。

起こりやすい腱鞘炎の種類には、指を曲げきったところから伸ばす時に引っ掛かりが起きる 「A1pulley 部ばね指」、スマホの使いすぎなど親指の酷使で起こる「ドケルバン病」などがあります。

その他に も、指を曲げるときに引っ掛かりが起きる「A2pulley 部ばね指」、手のしびれを引き起こす「手根管症候群」、外 くるぶしのやや下あたりで腱鞘炎を起こす「腓骨筋腱滑車症候群」などが代表的な腱鞘炎です。

腱鞘炎の原因と腱鞘炎が起こりやすい人

腱鞘炎の原因は男女で多少異なるともいわれており、男性は指などの酷使や加齢による腱鞘や腱の硬化が腱鞘炎 の原因ですが、女性は加齢や指などの酷使のほかエストロゲンなど女性ホルモン量の変化も腱鞘炎の発症に関係 してきます。

女性は妊娠期、出産後、更年期に女性ホルモン量の大きな変化が起きるため、この時期での腱鞘炎 発症は、原因を慎重に見極めてもらいましょう。

腱鞘炎が起こりやすい人は、パソコン作業や楽器の演奏など「手指をよく使う人」や「女性ホルモン変動期の女 性」、ゴルフやバトミントン、テニス、ボウリングなど「手首を酷使する人」はもちろんですが、「糖尿病」「人工 透析を受けている」「痛風」「関節リウマチ」の方もリスクが高いため注意しましょう。

腱鞘炎の主な症状について

腱鞘炎では以下のような症状が出るとされています。

  • 指や手首の違和感や動かしづらさ
  • 患部の痛み
  • 患部の熱感
  • 患部の腫れ
  • 手のしびれ
  • 手の親指を動かすと痛む(ドケルバン病)
  • 指の曲げ伸ばし時に引っ掛かりが起きる(ばね指)

腱鞘炎は病態の進行度合いによって初期、中期、末期の3段階に分類され、初期では痛みや動かしづらさの症状 は出ますが軽いものです。末期では腫れや痛みで手指が動かせないほど重症化し、日常生活が送れない状態にな ることもあります。

腱鞘炎の1つである「ばね指」は中後期の症状で、ばね指が悪化すると指が動かなくなるた め放置は危険です。

腱鞘炎の診断について

腱鞘炎の診断は、以下の方法で行われます。

  • 診察(問診、触診、視診)
  • 単純 X 線検査(レントゲン検査)
  • MRI 検査
  • 超音波検査(エコー検査)

腱鞘炎の診断は整形外科または手外科で行えます。 各項目について解説していきます。

診察(問診、触診、視診)

腱鞘炎は問診や触診、視診のほかフィンケルシュタインテストなどの徒手整形外科テスト(医師の手による検査 で評価すること)によって腫れや痛みの状態などを診察していきます。

単純 X 線検査(レントゲン検査)

単純 X 線検査では主に骨の状態などが確認できます。症状が重度の腱鞘炎では関節障害や骨折など、別の病気と の区別が必要になる場合もあるため、その際に単純 X 線検査が行われることもあります。

MRI 検査

MRI 検査は体内を断面像として撮影できる精密検査機器です。腱や腱鞘の状態を詳しく診る事ができるため、腱 鞘の狭窄程度などを調べるのに使われる場合があります。

超音波検査(エコー検査)

超音波検査とは、人間が聴くことができない高い周波数の音波を体内の臓器などにあてて、跳ね返ってきた情報 を画像に変換して映し出す検査です。超音波検査では関節の動きや腱の腫れを直接観察でき、近年では炎症の程 度を色で判断することも可能になっています。腱鞘炎では「エラストグラフィー」という組織の硬さをみる特殊 な検査で診断を行います。

腱鞘炎の治療について

腱鞘炎の治療は以下の方法で行われます。

  • 保存療法
  • 薬物療法
  • 手術療法

腱鞘炎も他の疾患と同様にまずは保存療法が第1選択となります。 それぞれの項目について解説していきます。

保存療法

腱鞘炎は使いすぎによる炎症の発生が原因のため、まずはできるだけ患部を使わずに安静にすることが基本治療 となります。

患部への負荷をさけるためにサポーターやテーピング固定をしたり、日常生活で使わざるをえない 状況では適度に休憩をとったりすることも大事です。

炎症を抑えて組織を回復させるために、アイシングや物理 療法(超音波治療や低周波治療、温熱療法)、ストレッチなども行います。

薬物治療

腱鞘炎での薬物治療は保存療法と併用して行われ、目的は「炎症の抑制」と「痛み止め」です。湿布や塗り薬、 非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)が処方され、痛みがひどい場合は炎症が起きている腱鞘の中に「ステロ イド薬」を直接注射します。

ステロイド注射は効果が強いとされますが、糖尿病やアレルギーのある人には注射 が行えず、ステロイド注射を繰り返すと腱が弱って切れてしまう危険があるため、そういったケースでは手術療 法が検討されます。

手術療法

数回の注射でも腱鞘炎が再発してしまう場合は「腱鞘切開術」と呼ばれる手術療法が適用されます。局所麻酔を して、腫れて厚くなった腱鞘を切り開く手術です。

切り開いた腱鞘以外にも腱鞘は残っているため、手術後はリ ハビリで問題があった部位の機能回復を行います。

まとめ

あらゆる人に起こる可能性のある腱鞘炎。女性ホルモンも関係しているため、男性に比べ女性の罹患リスクが高 いといえます。どんな疾患もそうですが、腱鞘炎も初期段階で適切な治療を受けることが重要です。

医師は病態に合わせた最良の治療を選択してくれますので、一緒に治療を頑張っていきましょう。