椎間板ヘルニアの病態と治療についての解説

椎間板ヘルニアってどんな状態なんだろう?
椎間板ヘルニアは手術しなくても治るの?

20~50 代の年代に多いといわれる椎間板ヘルニア。重いものを床から持ち上げたりした時に突然発症すること もある背骨の傷害です。近年では新しい知見も出ており、手術なしで治るケースも多い病気として知られてきて います。

今回の記事では椎間板ヘルニアの病態と治療について解説していきます。

椎間板ヘルニアの病態について

椎間板ヘルニアとは、背骨を構成している椎間板の内部にある髄核(ずいかく)という組織が一部飛び出して、 神経を圧迫している状態です。

椎間板は内部に水分をたくさん含んだゼリー状の髄核があり、それを線維輪(せ んいりん)と呼ばれる軟骨組織が取り囲む二重構造になっており、背骨にかかる衝撃を和らげる役割を果たして います。

しかし、重いものを持つなど椎間板を潰すような強い圧力がかかったり、加齢で椎間板の水分が失われて弾力がなくなったりすると、髄核の一部が外に飛び出します。

椎間板ヘルニアは背骨のどの部位にも起こる可能性はありますが、ほとんどは最も負荷のかかりやすい腰椎(腰 の骨)で、次に頸椎(首の骨)に起こり、胸椎の椎間板ヘルニアはあまり起きないといわれています。

椎間板ヘルニアの分類について

椎間板ヘルニアは主に以下の2タイプに分類されます。

  • 脱出型
  • 膨隆型

脱出型は髄核を囲む繊維輪に亀裂(ヒビ)が入り、内部の髄核が繊維輪を飛び出してしまった状態です。

椎間板ヘルニア脱出型は、後縦靭帯を破らない「靭帯下突出型」の他に、椎間板と脊柱管の間にある後縦靭帯もつき破った「穿破脱出型ヘルニア」、後縦靭帯をつき破った髄核の一部が分離して脊柱管内の別の場所に移動した「遊離脱出型ヘルニア」のように状態によって分けられます。

膨隆型は繊維輪に亀裂が無く、髄核が繊維輪から飛び出さずに髄核と繊維輪が一緒に飛び出た状態を指します。

椎間板ヘルニアの主な症状について

椎間板ヘルニアでは、以下のような症状が出るとされています。

  • 首の痛みやしびれ
  • 肩の痛みやしびれ
  • 手の動かしづらさ
  • 背中の痛みやしびれ(腰痛を含む)
  • おしりの痛み
  • 足の痛みやしびれ
  • 排尿、排便障害
  • 下肢筋力低下
  • 間欠性跛行(かんけつせいはこう) “歩いているとすぐに腰が痛くなる状態”

椎間板ヘルニアは脊柱管狭窄症と似たような症状が出ますが、椎間板ヘルニアではおじぎなどの体を前にかがめ る動作や背中を丸める動作で症状が強くなることが特徴です。

排尿・排便障害や間欠性跛行、下肢筋力低下は「馬尾型椎間板ヘルニア」であったり、椎間板ヘルニアが進行して重症化していたりなど危険な場合も多いため、早めの手術療法が検討されます。

椎間板ヘルニアの診断について

椎間板ヘルニアの診断は、以下の方法で行われます。

  • 診察
  • 単純 X 線検査(レントゲン検査)
  • CT検査
  • MRI検査 それぞれの項目について解説していきます。

診察

痛みやしびれの確認などの問診や触診、視診、徒手テスト(医師の手による検査で評価すること)、筋力や感覚を 確認する神経学的検査などさまざまな診察が行われます。

X線検査(レントゲン検査)

X 線検査は骨の状態を見る検査です。背骨の骨折や変形、腫瘍(がん)など椎間板ヘルニア以外の病気を確認するためにも使われます。

CT検査

CT検査は空間分解能力が高く、細かい部分が見えます。造影剤を使うことで、よりハッキリと患部を調べるこ とも可能で、MRI検査と合わせて病態詳細を確認できます。

MRI検査

MRI検査は椎間板ヘルニアの中心的な検査です。MRI検査では椎骨や椎間板、神経を圧迫している様子などの鮮明な画像が見られるため、椎間板ヘルニアの診断には欠かせない検査です。

椎間板ヘルニアの治療について

椎間板ヘルニアの治療は以下の方法で行われます。

  • 保存療法
  • 薬物療法
  • 神経ブロック(硬膜外ブロック・神経根ブロック)
  • 椎間板内酵素注入療法
  • 手術療法

「薬物療法」「神経ブロック」は保存療法として分類されます。椎間板ヘルニアの治療方針は、基本的に体への負担が少ない保存療法が第1選択です。排尿障害や間欠性跛行など重篤な神経障害の症状が出ている場合は手術療法が適用になる場合もあります。

それぞれの項目について解説していきます。

保存療法

保存療法には「運動療法」「装具療法」「物理療法」などがあります。装具療法では椎間板ヘルニアの患部をコルセットやサポーターなどで固定します。

特に急性期(椎間板ヘルニアの発症直後)で痛みやしびれがひどい時は、患部の保護のためにもコルセットなどでの固定は重要です。電気療法や温熱療法などの物理療法で回復を図りながら、痛みやしびれなどの症状がないタイミング見計らって患部が固まらないように運動療法を行います。

椎間板ヘルニアでは髄核が椎間板と神経の間にある後縦靭帯を突き破っている場合、飛び出した髄核を体内の貧 食細胞が異物として認識、食べて吸収するため、近年では脱出型の椎間板ヘルニアは発症してから3カ月~半年 前後で自然に消失する場合も多いとされています。

薬物療法

椎間板ヘルニアでは非ステロイド性消炎鎮痛薬やアセトアミノフェン、プレガバリン(神経障害性疼痛治療薬) などを使って痛みを抑える薬物療法を行います。保存療法の1つとして薬で痛みをコントロールしながら、2~3 ヶ月ほど様子を見ます。

神経ブロック(硬膜外ブロック・神経根ブロック)

椎間板ヘルニアの痛みが強い場合、神経への直接注射で痛みを感じなくする神経ブロックを行います。

神経根ブロックとは背骨の神経の根元にある神経根に麻酔薬を注射する治療方法、硬膜外ブロックとは背骨の中にある硬膜外腔というスペースに注射することで痛みや炎症をおさえる治療のことです。

椎間板内酵素注入療法

椎間板内酵素注入療法は薬物療法や神経ブロックでも痛みが取れないが、手術まで踏み切れない方が対象になる、2018 年に使用開始となった比較的新しい治療法です。

レントゲン透視(リアルタイムで放射線を出す機械)を使ってヘルニアが出ている椎間板に針を刺してコンドリアーゼ(ヘルニコア)というお薬を投与する方法ですが、「靭帯下突出型」のみに使用可能、不安定性がある背骨には適応外など、いくつかの制限があります。

手術療法

保存療法などで効果がみられず症状がひどくなっている場合や、神経障害症状や重度のまひがあるなど緊急を要 する場合は手術療法を行います。
椎間板ヘルニアの手術法は主に3つで、

  • ヘルニアを起こしている椎間板を切って神経の圧迫を取り除く「椎間板切除術(LOVE 法)」
  • 内視鏡や顕微鏡を使ってヘルニア部分だけを取り除く「椎間板摘出法(MD 法、MED 法、PELD 法)」
  • 切らずに針を用いて背中からアプローチする「経皮(けいひ)的椎間板減圧術(PLDD 法)」 椎間板ヘルニアの状態に合わせて最適な手術法が選択されます。

まとめ

誰にでも発症する可能性がある椎間板ヘルニア。近年では医療の進化もあり、治療の幅も広がってきています。手術をしなくても治るケースが多いため、初期治療と治しきるまでの我慢が重要といえます。

医師は病態に合わせた最良の治療を選択してくれますので、一緒に治療を頑張っていきましょう。