五十肩の痛みや肩のこわばりには漢方も処方されることがあります。
五十肩に効果があるとされる漢方の種類とその効果をご紹介します。
五十肩とは
外傷もないのに、ある日突然肩周辺に強い痛みを感じ、肩関節が動かしにくくなる病気です。医学的には「肩関節周囲炎」と言い、40代~50代にかけて発症しやすいので「四十肩」や「五十肩」と呼ばれています。
五十肩の症状
夜、寝ていると肩が痛くなる「夜間痛」は五十肩の典型的な症状の1つです。寝返りを打つと痛い、痛いほうの肩を下にして眠れない、眠ってから1〜2時間ほどすると痛みで起きてしまう、朝起きると肩が痛いなどの症状がみられます。
五十肩の治療
西洋医学的な治療としては、消炎鎮痛剤の内服、リハビリテーション(理学療法)、関節内へのステロイド剤とヒアルロン酸、神経ブロックなどが行われています。
また、痛みによる筋肉の過度な緊張をほぐすため、温熱療法などを行う場合もあります。重症例では、関節腔拡張術や鏡視下関節包切離術などの手術が行われることもあります。
漢方とは
東洋医学的なアプローチ(治療法)として、漢方薬の処方があります。さまざまな生薬の組み合わせによって、その人の体質に適したからだの症状に対応できる漢方薬は、何千年もの歴史があり、治療効果のあるものが今日も医薬品として用いられています。
漢方の基本は、“人間の体も自然の一部”という考え方です。“病気ではなく病人をみる”という考えで、体の一部分だけにスポットをあてるのではなく、体全体の状態のバランスを総合的に見直すといった特徴があります。
また、体質や生活習慣などから見直し、整えていくことも漢方の特徴です。また、漢方は、病名がついていない不調(未病)にもアプローチできるのも大きなポイントです。
漢方薬と西洋薬の違い
漢方薬は生薬でできたもので西洋薬は化学的に合成した成分でできたものです。
また、漢方薬と西洋薬は、「治し」に対する考え方」が少し違います。
漢方医学は、長い伝統と豊富な経験から作られてきたもので、体本来の持つ働きを高めるように作用して、体自身の力で正常な状態に戻そうとするものです。
局所的に現れた症状だけを見るのではなく病気の人全体を見て心身全体のバランスを治していくという総合治療という考え方に立ちます。
自覚症状を重視して、その人ごとに違う個人差を大切にします。
一方、西洋医学は症状として起きている現象に対して局所的に対応するものです。
病気を部分的に見ることで、本来体がするべきはたらきを薬が代わりにしそのはたらきが切れると元の状態に戻ってしまうこともあります。
病気を診る場合、客観性が重視されるため、自覚症状だけでなく他覚症状や検査数値が重視されます。
ただ、漢方、西洋薬のどちらが優れているというわけではないのでそれぞれの得意分野を組み合わせて併用することが有効だと考えられています。
漢方では、痛みは「気」「血」「水」の巡りが滞ることで生じると考えます。肩の状態に合わせた漢方薬を使って症状を改善しましょう。
五十肩に使われる漢方
以下に四十肩・五十肩に使われる主な漢方をご紹介します。
肩が痛む「急性期」によく使う「二朮湯(にじゅつとう)」
「朮」には利水剤の意味があり、13生薬(白朮、茯苓、陳皮、天南星、香附子、オウゴン、威霊仙、羌活、半夏、蒼朮、甘草、生姜)から成る漢方薬は体を温め水分代謝を向上させて痛みを改善します。
寒冷刺激で痛みがひどくなる、むくみ体質で胃腸があまり強くない方に向いていて水分や血液のめぐりをよくすることで五十肩にアプローチしてくれます。
むくみ体質で胃弱の人にも向いていて、特に急性期(炎症、痛みが強い時期)に使用されます。
体を温め筋肉を和らげるなら「葛根湯(かっこんとう)」
体を温める作用があり、炎症が起こり、発熱しているときや首筋などが緊張しているとき、風邪をひいたときに使われます。
痛みがあり動かしにくいときは「桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう)」
体を温める作用と鎮痛の働きがあり、関節が痛んで動かしにくいときなどに使われます。胃弱で鎮痛剤が苦手な人におすすめです。
余分な水分を排出する「薏苡仁湯(よくいにんとう)」
水分を排出し、痛みをとる薏苡仁(よくいにんとう)を配合しています。腫れて熱をもった関節痛や筋肉痛、神経痛などに使用されます。
夜痛みが出るときに「芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)」
「気」・「血」を補い、筋肉のけいれんによる強い痛みを鎮めます。特に夜間痛が出ている時に使用されます。
独活葛根湯(どっかつかっこんとう)
漢方では、五十肩の状態を加齢に伴い「気」と「血」の巡りが悪くなり痛みなど不快な症状が現れると考えます。
「独活葛根湯」は、「葛根湯」をベースに、9つの生薬(葛根、桂皮、芍薬、麻黄、独活、生姜、地黄、大棗、甘草)を加えた処方です。
「気」と「血」を補う生薬が配合されているので関節のこわばりで悪くなった血行を良くし、栄養を与えることで、五十肩や肩こりなどの症状を緩和します。
五十肩の対処法
上述の漢方を服用している場合でも、基本的な四十肩・五十肩への対処法は西洋医学、東洋医学ともに同じです。
具体的には、寝ていても痛い、じっとしても痛いなどの、痛みが強い急性期(炎症期)は無理をして動かさないほうが良く、無理に動かすと炎症が余計に増して痛みが治りにくくなります。
鈍い痛みが出たり関節が動かしにくくなったりする慢性期は、肩を冷やさないようにすることが大切です。冷えると痛みがひどくなるので、夏は冷房対策もしっかりと行いましょう。
また、糖尿病のある方は五十肩になりやすく、また一度四十肩・五十肩になると治りにくいことが知られていますので糖尿病はきちんとコントロールしましょう。
治療や自然経過で炎症期が過ぎれば痛みは徐々に落ち着いてきます。
そのタイミングで動かしていくのが最も早く治るコツです。痛みが和らいだら負担のない範囲で肩を動かすことが大切です。