変形性膝関節症の注射について解説
変形性膝関節症の保存療法として治療に用いられる各種の注射。どんな方にどんな注射が処方されるのでしょうか。説明しています。
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変形性膝関節症とは
加齢により膝の軟骨が少しずつ減少することで、変形したり骨がこすれたりして痛みが起こる病気です。 男女比は1:4で女性に多くみられ、高齢者になるほど罹患率は高くなります。
変形性膝関節症になりやすい人
この病気は加齢、遺伝、肥満との関連が言われています。また、過去にスポーツや事故などで、骨折や靱帯や半月板損傷などを痛めたことがある場合や、化膿性関節炎などの感染の後遺症として発症することがあります。
若い時に膝を痛めたことがある人は、加齢とともに再度、痛みが出てくる場合があります。
変形性膝関節症はなぜ痛いの?
健康な状態の関節は、関節液という潤滑油の役割をする液が充分に満たされているので、滑らかに動くことができます。関節面は軟骨で覆われており、クッションのような働きをして、日常生活での負荷や衝撃を吸収してくれます。
この関節の軟骨が長年の負荷によって徐々にすり減っていくと、動きが悪くなったり、炎症や痛みを伴ったりするようになります。
その他、関節面に骨棘という骨のトゲができたり、関節液の中のヒアルロン酸が減少することで痛みを生じます。
また、炎症性サイトカインという痛みのもととなる物質が増えることなどもわかっており、変形性膝関節症は複合的な原因で痛みが生じます。
変形性膝関節症の症状と治療
変形性膝関節症の治療法は症状や重症度により、保存療法と手術療法に分けられます。
初期の症状と治療
- 立ち上がりや動作や動き始めに痛みが出る
- 膝を動かすときに違和感がある
- 腫れ、熱を持っている
治療としては保存療法が中心になります。
痛み止めの飲み薬や関節内注射などの薬物療法、足底にかかる荷重の位置を調整する足底板療法、膝関節を保護するためのサポーターや装具の装着などを行います。
また、理学療法士による生活指導や運動療法を実施しながら、症状が進行するのを防いでいくことが大切です。
中期の症状と治療
中期になると膝の動きにくさが、さらに増大してきます。
初期症状に加えて、
- 正座や階段の昇り降りが痛みで辛い
- 膝を動かすとゴリッといった音がする
- 体重をかけた時に不安定な感じがする
- 膝が腫れぼったくなる、水が溜まる
中期の治療は、初期の治療に加えて手術療法が検討されます。関節鏡で膝関節の中の軟骨や半月板などの傷んだ組織を掃除する関節鏡手術や、脛の骨を切って、正常な膝の形に戻す、高位脛骨骨切り術などがあります。
末期の症状と治療
末期になると、初期中期の症状に加えて、
- 安静時にも痛い
- 立った時にO脚になり、左右の膝がつかない
- 膝を完全に伸ばすことができない
- 歩くのが苦痛
- 入浴やトイレ動作、家事など日常生活に支障が出ている
などの症状がみられます。末期の治療には、人工膝関節置換術などが検討されます。手術後はリハビリテーションを受け、関節の状態を良好に維持し、筋力の回復・維持に努めることが大切です。
変形性膝関節症と注射
変形性膝関節症の治療法で知られている、「ヒアルロン酸注射」は長い歴史を持ち、関節痛の治療に広く行われている有名な方法です。治療法として一般的にも浸透しているため、膝の痛みを抱えている方のなかには、すでに治療を試したことのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
一方で近年「PRP注射」療法(再生医療)を行う治療院も出てきています。これら2つの注射はどちらも、炎症を起こし痛みを発している膝関節に注射する方法です。
ヒアルロン酸注射とPRP注射はどんなものなのか、どのような目的で行われるのか、効果の違いは何かについてお伝えします。
ヒアルロン注射の概要と費用
ヒアルロン酸注射は、公的医療保険で認可されていることもあり、変形性膝関節症に対するスタンダードな治療として、日本では最も数多く施行されています。
ヒアルロン酸注射はヒアルロン酸を関節へ注入し、関節軟骨の滑りを良くして膝の動きをスムーズにすることで、痛みを軽減させるといった効果を期待する治療です。
しかしヒアルロン酸は、関節内に注入したからと言って軟骨が再生することはなく、あくまで関節内の滑りを良くする「潤滑油」であり、対症療法という位置づけでしかありません。
変形性膝関節症に対するヒアルロン酸注射は健康保険の適用になります。75歳以上で1割負担の保険診療で行う場合、両膝への注射1回当たりで1000円程度になります。
ヒアルロン酸注射を実施する場合、まずは1週間ごとに5回注射することが一般的ですので、1ヶ月分の治療費として、注射代だけで合計5000円程度が目安になります。その後は、症状や痛みの様子をみながら、医師の判断で注射を継続するかどうか決定します。
PRP注射の概要と費用
一方、PRP注射は年齢問わず、スポーツ選手や美容目的などでも近年、画期的な治療として注目されている再生医療のひとつです。
PRP注射は、ご自身の血液から作製した、多血小板血漿 (Platelet Rich Plasma: PRP)を直接、膝関節に注入します。PRP注射にはたくさんの自家製の成長因子が含まれており、その働きによって、抗炎症作用による痛みの軽減や損傷した組織の修復を促せることが、最大のメリットです。
しかも、自分の血液のみを使用した治療ですので、副作用やリスクがほとんどなく、効果も比較的ヒアルロン酸注射よりも長く、半年以上継続する方もいらっしゃいます。
PRP注射は、関節軟骨を破壊するサイトカインと呼ばれるタンパク質を減少させる作用もあることから、将来的な変形予防も期待できます。さらに重要な点は、ヒアルロン酸注射で症状が改善されない方でも、PRP注射では改善される方が多いということです。
PRP注射が開発されるまで、ヒアルロン酸で効果が無い場合の次の一手は「手術」のみでした。しかし手術をすれば、体への負担が大きいことはもちろん、入院やリハビリテーションが必要となります。
なので、変形性膝関節症の症状が改善するとわかっていても、実際に手術に踏み切れる方は決して多くはありませんでした。PRP注射はそういった、ヒアルロン酸注射では効果が不十分だが、手術に踏み切れない方に残された治療法と言えます。
ただしPRP注射は自費診療であるため、ヒアルロン酸注射に比べると費用が高くなる傾向にあります。なので、変形性膝関節症の初期症状はヒアルロン酸注射での治療を行い、効果の低下や持続期間が短くなってきた場合にPRP注射に切り替え、将来的な変形をなるべく遅らせることが最善の方法と考えるのが妥当でしょう。
費用は保険が適用されませんので、自費、両膝で1回5万円〜10万円が目安です。一回処方して終わりではなく、通常、複数回(3回以上)処方します。
また、PRP療法は再生医療のひとつですが、先進医療や高額医療の補助の対象とはなりません。PRP療法実施日の痛み止めや湿布の処方、および検査もすべて自費となりますのでご注意ください。